研究内容
光は必要だけど
光は危ない
光合成を行う為には、光が必要です。しかし、多すぎる光のエネルギーは葉緑体チラコイド膜上の光合成タンパク質に損傷を与え、光合成活性を低下させます。光によって光合成の機能が低下する現象を「光傷害」と呼びます。チラコイド膜上の光化学系IIと光化学系Iの両方が光傷害を受けますが、私たちは特に光化学系I(Photosystem I: PSI)の光傷害に興味があります。
PSIの光傷害は、PSI内部を流れる電子がO2へと流出し、その際に生成される活性酸素種により引き起こされると考えられていますが、具体的な光傷害発生機構は未だに明らかになっていません。一方で、同じ植物でも、品種によって光傷害に弱い品種と強い品種が存在することや、栽培する環境で光傷害に対する耐性が変化することもわかってきました。つまり、植物はPSI光傷害に対する防御機構があることが予想されます。
私たちはこのような背景から、PSIがどのように光傷害を受けるのか?とPSIはどのように光傷害を防ごうとしているか?を明らかにしようとしています。この研究によって、たくさんの光を浴びても光合成し続けることのできるチラコイド膜システムの構築ができるのではないかと考えています。
生育に必須な栄養も
取りすぎでは毒になる
植物には、C,H,Oを含めて17種類の生育には欠かせない元素があります。これら元素のことを「必須元素」と呼びます。これらの元素が植物細胞内において欠乏すると植物の生長は抑えられますが、逆に過剰な濃度で存在していても、植物の生育を顕著に阻害します。
農業の現場において、これらの栄養素の過剰障害は「毒性」として広く認識されていて、「肥料を作物に与えすぎてはいけない」という経験上の理解はあるのですが、「なぜ栄養をたくさん与えすぎてはいけないか?」という疑問に対する答えはあまり明確にわかっていません。
私たちは、このような背景の下、イネやコムギ、ソバなど多彩な作物を用いて植物の必須元素や土壌金属元素が植物の生理応答に与える影響の解明を進めています。
これらの研究によって、元素の細胞内動態と毒性発症の原因を明らかにできれば、それを調節・克服することでたくさん栄養を吸収しても毒にならず、より元気に育つ作物をデザインできるのではないかと考えています。
環境適応のための
新しい遺伝子の探索
私たちは、マクロな生理生態学的な側面(表現型の観察や生理応答の解析)にとどまらず、ミクロな領域である分子生物学・分子遺伝学的な要因にも興味があります。
新しい植物の環境応答機構を発見した際には、その応答を引き起こすための「何らかの遺伝子」が機能していることが考えられます。とはいっても植物ゲノム上には極めて多くの遺伝子があるため、どの遺伝子の「おかげ」でその応答が起きているかを決定するのかを予想するのは大変むつかしく、かといって片っ端から遺伝子を破壊して植物にどのような影響が出るのかを調べることは効率出来ではありません。
そこで、ランダムに遺伝子を破壊して作成した突然変異体植物集団や、同一植物の多彩な品種やエコタイプを興味ある環境条件で栽培し、環境適応に重要な遺伝子を順遺伝学的に見出します。この解析では、予想もしなかった遺伝子に出会うことができ、宝探しのようで大変面白いです。
共同研究による
新しい発見
私たちは思いつく限りに面白いこと、そして将来役に立つであろうことを研究しようとしています。しかしながら、やはり個人の発想だけに依存していては凝り固まりと限界が生じます。
ありがたいことに様々な研究者や学生さんと研究に関する議論を積み重ねる機会をいただき、多方面に研究が発展しつつあります。
もちろん、なんでもかんでも私たちが取り組める研究テーマにできるわけではありませんが、私たちの得意分野の知識や考え方を基盤としたときに何か新しい生命現象なりを深堀できそうなテーマは積極的に挑戦していきたいという気概でいます。